通称「DVDリッピング違法化」等と呼ばれる著作権法上の「技術的保護手段」見直し(著作権法・第30条第1項第2号および第2条第1項第20号改正規定[PDF])が、去る6月20日、参議院本会議で付帯決議付きにて可決・成立した。

端的には DVD や Blu-ray 他に導入されている「CSSAACSCPRM」といった技術的保護を回避しての複製を私的利用であっても禁止するものだが、この「技術的保護手段」は広い意味を含んでおり、PCでテレビ放送を録画する際のMULTI2復号化やダビング10(コピー制御信号 CCI)の扱いにまで及ぶ「一粒で様々な用途に効力を発揮する便利な薬」となっている。

技術的保護手段を用いるメディアの「複製」を違法化

今年の10月1日から違法化する運用例としては──

  • CSS や AACS、B-CAS方式といった技術的保護手段を回避して DVD や Blu-ray ディスクをリッピングして複製
  • 上記の複製にはトランスコード(再エンコード)による複製も含まれる
  • という具合になり、例えば、Blu-ray を PC にイメージとして取り込み、以降ディスク交換せず視聴できる環境を構築……といった私的利用さえも違法となる。もちろん、好きな作品をエンコードして自分のスマートフォンや携帯ゲーム機に転送し、通勤・通学中に視聴するのもアウトである。つまり、DVD や Blu-ray ディスクといった CSS や AACS 等による技術的保護を掛けたメディアは、著作権者の許諾を得るか著作権法第32条の引用の権利に該当するケースを除き、私的利用であっても複製は許されない。

    少々厳しい表現をすると、10月1日以降に購入する DVD や Blu-ray パッケージ作品は、光ディスクの寿命期限付きレンタル品のようなもので、例えば光ディスクの劣化や光ディスクドライブ(ハード)が製造中止になると、その作品は視聴できないただのポリカーボネートの円盤になる。私的利用による複製を許可していないため、光ディスクの合法的なバックアップ・データ移行手段が無いのだ。できれば、光ディスク時代が終わる前にパッケージ所有者への救済策(新たなフォーマット対応の同製品やイメージファイルをアクティベーション付きで発行する。または発売後数年経てば私的利用における複製だけは可能とする等)を考えていただきたいものである。

    PCでテレビ放送のデータをどう扱うべきか
    これが少々ややこしく、地上波の受信・視聴であればアクセスコントロールを成す「MULTI2の復号化」と、コピーコントロールを成す「CCI制御によるダビング10」の運用がこの法改正でどう変わるのか、という点がポイントとなる。基本的に技術的保護手段はいずれにも該当するが、放送波を復調してテレビ放送のストリームを保存するのであれば複製には当たらず、正規の B-CAS カードを使用してデスクランブル・視聴する行為は市販のレコーダとなんら変わらない。

    ゆえに、アースソフトのPTシリーズ等と正規 B-CAS カードを用いて録画・視聴する行為に違法性はないと思われるものの、一点だけ気掛かりなのは「B25Decoder」の扱いである。

    私のサイトをよく閲覧してくださる方々であれば「まるも製作所」の茂木氏をご存じかと思われますが、MULTI2 暗号の復号仕様として ARIB STD-B25 が公開されていることから、氏はそれを元に「ARIB STD-B25 仕様確認テストプログラム・ソースコード」を作成・公開していました。が、この度の改正法の矛先が「技術的保護手段として用いているのが暗号化である以上、その暗号化技術が公開されているか否かは問わず、ダビング10が動作する正規の機器・製品以外で復号化するのは好ましくない」という流れだと少なからず感じたためか、先のプログラムを公開停止にしており、B25Decoder についても「国内配布は避けたほうが安全だろう」という見解を示している。

    個人的には、B25Decoder それ自体が技術的保護手段を「回避」しつつ複製するものではない(正当な復号化プログラム・ライブラリとしてのみ機能する)ため、この度の法改正で引っかかるとは思わないが、一方で「ハード・ソフトは機能として正当でも、ダビング10(CCI制御)がまともに効かない環境での使用は技術的保護手段の回避、またはそれをアシストするもの」という捉え方もあり得るため、すでに B25Decoder を所持している人が使うだけならともかく、10月1日以降に B25Decoder を配布してしまうと回避プログラムの提供と捉えられてしまう危険性はありそうだ。

    さらに、テレビ放送のエンコード・トランスコードとなると改正法の「技術的保護手段を回避しての複製は私的利用であっても認められない」がダビング10制御と相まり、アウトの確率もあると感じる。少なくとも私はオススメしたくない(その後、文化庁の見解としてB-CAS方式のスクランブルも含まれることからアウトが明確に)。

    ダビング10のCCI信号は TS に含まれているものの、そのTSファイルを扱う過程で CCI を検知しながらダビング10制御を真面目に行うPCアプリケーションが少なく、録画したTSファイルを再生して観るだけなら複製ではないが、CCI制御が効かないソフト・ハードでトランスコードすると「ダビング10を回避して複製した」と捉えられてしまう危険性が非常に高い。どうしてもPC上でダビング10に基づいた編集やトランスコードをしたい場合は、ペガシス社の「TMPGEnc MPEG Editor 3」といったダビング10対応アプリケーション・環境が必須となるかもしれない。



    まとめ──

  • CSSやAACSといった技術的保護手段を回避してのDVDやBlu-rayディスクデータの複製は違法となる
  • テレビ放送のコピー制御信号(CCI)に従わず映像・音声ストリーム(TSファイル等)を複製するのも危険
  • 上記の複製にはトランスコード(再エンコード)による複製も含まれる
  • ただし、批評・言論の自由、研究や実験・検証等に伴う正当な引用の権利については従来どおり行使できる

  • リンク
  • 10月1日からDVDリッピング違法化&違法DL刑罰化、改正著作権法が可決・成立 INTERNET Watch
    著作権法第30条第1項第2号改正規定 [PDF] 文部科学省
    3月20日(火) 第180回国会 提出 著作権法改定案について [2] - 主作用 まるも製作所
    TMPGEnc MPEG Editor 3 株式会社ぺガシス

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

    × 6 = 48

    このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください