パッと観ただけで、映像と曲の蟹推しに圧倒される「あいうら」OP。それぞれのカットにはあらゆる手法を用いた「蟹」が表現されていて、よ~く見ると多数のカットに元ネタがあるパロディ・オマージュだということに気づく。それらを「良い意味でバカバカしいアーティスティックな映像表現」として、怒濤の如く60秒で表現した中村亮介監督の野心的な遊び心と元ネタへの敬意について感じた範囲内で書いてみた。
また、これらの内容は私自身の現解釈に過ぎないため、鵜呑みにせず参考程度にどうぞ。
⏳0:00~0:01 ローマ字表記の「AIURA」ロゴ
このスペオペ風ロゴをいきなり見せられても元ネタ(であろうもの)が私にはわからなかった。が、後述するカットを見て何となく推測はできたものの、あまり自信はない(詳しくは後ほど)。
⏳~0:02 蟹をセンターに置いたバラ窓のステンドグラス
このステンドグラス(蟹以外の部分)は、ヨーロッパのゴシック建築に見られる円形ステンドグラス「バラ窓」をモチーフにしたものだが、それに蟹を配し「蟹の啓示を受けた世界」と言わんばかりの壮大なネタを最初に投入してきた。これから始まる蟹の素晴らしさを表現するに相応しいネタであると同時に、差し込んだ光にレンズフレア(ゴースト)のエフェクトを入れ、更なる神々しさと始まりのイメージを相乗効果としてプラスしている。といっても蟹なんですけど。
1:22あたりでもうひとつ出てくるステンドグラスは、残念ながら元ネタがわからなかった。
⏳0:02~ 主人公3人の顔出し
ネタではないけれど、主人公3人の顔出し。一応、本作のヒロインなので。
・ゆっこん(かわいい蟹の全体像)
・かなかな(おやつにカニつめ:蟹のハサミのフライ)
・サキ(カニ爪のシンプルで飾り気のないデザイン)
という具合にキャラクター個々の性格を蟹で表現したような背景とともに、それぞれ1人ずつカットが入る。
⏳0:04~ アンディ・ウォーホルのポップアート
ポップアートの第一人者アンディ・ウォーホルのパロディ。いや、むしろオマージュというべきか。この後のカットでも様々な蟹やカニ缶をアンディ・ウォーホルの作品に擬えてサブリミナル的に挿入していく。おそらく「あいうら」OPの中で1,2を争うメジャーネタ。
なぜアンディ・ウォーホルなのかは、中村監督が好きなアーティストであったり、はたまたアンディ・ウォーホルが題材に挙げるほど蟹が芸術的にも素晴らしいと認知されているフィクション(ネタ観点として)という2面性があるように思う。
残念ながら、アンディ・ウォーホル作品のネタとして挿入されている全カットを詳しく解説できるほどアートの知識に明るくないため、説明はここまで。
⏳0:05~ ジョ○ズが世に送り出す革新的なデバイスさえも蟹形
どう見てもジョ○ズさん。存命であった頃の有名なプレゼンシーンが複数カット挿入されていて、OPで描かれている世界ではデザインとそのディテールにも並々ならぬ拘りを持つジョ○ズさえも、デバイスを蟹型にしてしまう(魅力が蟹にはある)というネタ。NEWSとして採りあげている映像はCNNだけれど、CNNのCはCableではなく「Crab」のCとなってる。
流れとしては、ジョ○ズがプレゼンの最後に「One more thing...」(あいうらOPならではの表現としては One more things...)という有名なフレーズとともに隠し球を紹介するカットから始まり、ここから革新的な蟹型デバイスの正体が露わとなる。
すべてのスクリーンショットはあえて載せないけれど、ひとつひとつのカットが非常に巧く描かれているので未見の方はぜひ1枚1枚確認してほしい。
冒頭のロゴと背景のマークは「スパイダーマン」のそれではないだろうか、というコメントをいただきました。たしかに、スパイダーマンから拝借したネタという可能性が高く、それをOSネタと混ぜて引っかけたのかは確度としてあまり自信がないため、それを考慮してこの項をお読みいただければ幸いです。
OP冒頭を見た瞬間は意図が不明だったけれど、ここでジョ○ズの背景に「AIURA」が表示された流れから、iOSロゴのオマージュではないかと推測。だとすれば、蟹や海老というハードに対し「AIURA」はオペレーティングシステムという位置づけになる。
iOSのロゴは、センターを境にやや斜めにグレーのグラデーションを反転させているが、オマージュ・パロディとはいえそこまで真似るとさすがにヤバいと判断したのかもしれない。「AIURA」はグレーのグラデーションをロゴの下まで単純に引っ張っている。
もしかすると「AIURA」ではなく「iURA」にしたかったのかもしれないが、これも色々と怖い。パロディやオマージュは対象やその程度を間違えると思わぬケチが付くかもしれないからだ。なお、バックに薄く表示してある甲殻類をイメージしたデザインロゴは、某社の「林檎的なそれ」に対応しているのかも。
中村監督、ジョ○ズやAppl○製品をよく見ているな……というか心底好きそう。
⏳0:07~ ヒロイン3人の紹介と蟹料理
他のネタを挟みながらキャラ紹介。
・かなかな (蟹をソテー。しかし熱さに驚いた蟹が逃げる。ピースした両手を頭に乗せて蟹の真似)
・サキ (蟹をボイル。指でシャイに蟹爪のポーズ)
・ゆっこん (調味料の味見。両手をクロスさせて蟹の影絵ポーズ)
OPのラストカットでは、これら3人のポーズをベースに1枚絵として〆ていて、途中で紹介されるサブキャラたちも必ず蟹爪ポーズをキメている。
⏳0:11~ マークや文字ネタ
この技法に有名な名称や元ネタがあるのかは不明だが、さくら色に近い赤と白で文字と地を反転させながら「蟹」という字をブロック状に敷き詰めている。中には「KANI」とか「蟹をデザインしたマーク」が1ヵ所ずつ入っていて、中央やや左下には「蟹の逆さ文字」、やや右下には「蟹座のマーク」が配置されている。蟹の逆さ文字は……「MHF」の逆蟹ネタを1文字で表した?
その後のカットでは寿司ネタとしての蟹も登場。
⏳0:16~ 蟹は感動ストーリーの主役にもなる「出会い・別れ~そして再会~」
ここから突然、小芝居が入る。もしかすると、「ある蟹とかなかなの出会い」を回想シーンとして見せているのかもしれない。OP冒頭のキャラ紹介カットで食べようとしていたけど。
ペットというより人間同士の友情に近い蟹描写。
イイハナシダナー
⏳0:27~ ビーカーと粉末状の何かと蟹爪
どうにも元ネタがわからないカットのひとつがこれ。260ml弱の液体がビーカーに入っており、その周りには6種の粉末。上部左右からビーカーに向かう2本の蟹爪。粉末が蟹の足の何かで、2本の蟹爪はそのままだとすると、ビーカーは胴体を表現した何か? でもネタがわからない。降参。
追記(2013/05/21):
コメントをくださった方の見解として、歌詞「やみつき夢見そう~」と被せた怪しい薬を表現しつつ、ドラッグのような魅力(おいしさ)が蟹にはあるというという可能性。
⏳0:30~ Red land crab
このカット以前にも蟹の実写映像を単色スケールで背景に使い、様々な蟹を紹介しているが、印刷物(または写真)のデータとして他とは違う表現を用いたこの蟹は「Red land crab」と記されている。蟹の大移動により、島が赤く覆われることで有名なクリスマス島のアカガニで間違いなさそう。
⏳0:34~ 食べなきゃわかんない!
カニ缶としてはポピュラーなズワイガニのカニ缶(1,050円)がまず登場。しかし、あいうらOPはこのままで終わらない。この後、カニカニ……を連呼する特徴的なフレーズに続き「食べなきゃわかんなーい!」の歌詞と曲のリズムにシンクロさせながら、タラバガニの高級カニ缶(10,500円)を2度ほどフラッシュ的効果で瞬時挿入してくる。しかも、タラバのカニ缶は高級感で光り輝き、中身が見えない。
要は一言に蟹といっても色々な蟹があって、実際に食べなきゃ(経験しないと)わからないよ、ということなのだろうけど、蟹を題材に余すことなくネタにしようという意気込みが伝わってくる。
また、ネタとは関係ないけれど、曲とのシンクロでカットの切り替わりが多い映像ながら、切り替えるテンポを変えたり、スミベタやホワイトを一瞬挿入してフェードさせながら切り替えるなど、視覚的に単調な印象を持たれないようトランジション等を工夫している点も「あいうら」OPの見どころ。
⏳その他・曲など
ほかにも、キャラ紹介の背景が単純な図形の組み合わせで蟹本体や蟹の部位をイメージさせるデザインになっていたり、OPソングの「カニ☆Do-Luck!」では食材としての蟹をカニフライやカニクリームコロッケとして調理し、いただくまでの流れをハイテンションに歌いあげつつ、スベスベマンジュウ蟹は食べられない(毒持ち)とか、駄洒落ワードにも使えるカニの万能さをさり気なくアピール。
あいうらOPがなぜ猛烈な蟹推しなのかは次項で推察するとして、作品そのものが持つシュールかつ掛け合い漫才的なノリとマッチしているな~と感じる。さらに言えば、メイン声優陣の未完成さというか初々しい歌い方・演技が「じわじわ来る可愛さ」みたいな魅力を醸し出しているようにさえ思うのだ。
1万円のカニ缶ばかり毎日食べ続けても、きっといつか飽きるのだから、たまには毛ガニや上海ガニも食べてみようぜ! みたいな。
いずれも、その時代を彩る洗練されたアート(アーティスト)が、蟹によって「バラ窓に蟹かよw」とか「ウォーホルのバナナが蟹の身にw」とか「蟹型スマホとか格好悪すぎ涙目w」という具合に、本来の芸術性とは違う何かへ持って行かれてしまうのだけど、パロディには大切な要素であろう「良い意味でのバカバカしさ」を息もつかせぬ圧倒的な蟹推しにより、中村亮介監督は見事に表現した。
そういう意味で、洗練されたアートとのコントラストを生み出すため、ベクトルが異なる「蟹」は必須だっただろうし、裏を返せば中村亮介監督は「バラ窓のステンドグラス」「ウォーホルのポップアート」「ジョブズの美しいスマートデバイス」等が好きで、アートの代表格として敬意を払っていたのではないだろうか。だからこそチョイスできたネタであり、同様の理由で食としての「美味しい蟹」もそうだろう。パロディは元ネタを悪意で揶揄するための表現技法ではないのだ。
だからこそ私たちは、敬意のうえで成り立つ「パロディ」と、私利私欲のみでこっそりネタを盗む「パクリ」の違いを敏感に感じ取ることができるのかもしれない。
・TVアニメ「あいうら」公式(テレビ東京)
>0:27~ ビーカーと粉末状の何かと蟹爪
歌詞のやみつき~から察するに
怪しいお薬的な感じなのかなーと思いました。
ハッ○ーターンの粉的な感じで・・・
おぉーなるほど。
これは最有力説!
強烈な元ネタがあるのかと思って難しく考えていました。
http://d.hatena.ne.jp/tunderealrovski/20130411/p1
ここでも考察されてるようにイントロは In the mood だし歌詞はアベルカインあたりのオマージュなあたりも混ぜて考えるとすごい
いろんな角度から攻めているんだな……と。
異なる観点から解釈できればまだ色々と見つかりそう。
最初のメタリックなAIURAってスパイダーマンじゃないですかね?
コメントありがとうございます。
スパイダーマンネタにも引っかけているのではないかというコメント、確かに!
本文に追記させていただきました。
掘るとまだまだ出てきそうですね。